カッシング丈ご生誕113周年おめでとうございます! 今回はだいぶ前に書いていたDVDのレビューを上げます。発売時に書いたのでなんと2年前(^^;)。芋づるの興味が広がりすぎ、きちんと仕上げないうちに他の話題を書いてしまったりで後回しになっていました。
リアルタイムの熱気を活かしたいので当時の文章を少し整える程度にしますが、ちょっと長いので目次をつけます。リンクがなくてごめんなさい…。(bloggerさんこの機能つけて~☆)
『怪奇!二つの顔の男』DVD感想
- 裏事情——3Dアイデアがアダに?
- でも脚色の工夫は買う☆
- カッシング丈の萌えどころ
- ネコ名演
- 個人的な偶然
- リー名演
- 原作古書と難波淳郎さん
- リリースラッシュで嬉しいやら悩ましいやら
* * *
『怪奇!二つの顔の男』DVD感想
久しぶりにアマゾンを検索し、いつのまにか出演作の新しい日本盤が出ていたことを知りまして、さっそく注文・鑑賞しました。
『怪奇!二つの顔の男』(Amazon)
![]() |
| あんまりなイラストだなー日本独自かしら?とか思ってたら、 IMDbに載ってる英語盤もこのジャケットでした☆(^^;) |
お話は……商品説明にもあるので書いてしまいますが、『ジキルとハイド』の脚色です。クリストファー・リー主演で、ジキルに当たるドクター・マーロウ(と、その変身後)を演じ、カッシング丈は彼の弁護士で友人でもあるアターソン役です。(これは原作通り。今回のDVDの字幕ではウターソンですが、スペルがUttersonで発音は「ア」が近く、一般的に「アターソン」で訳されてるので、そう書かせていただきますね)
ラストの感触はわりとあっけないのですが、まあアミカスもハマーもわりとこんな感じかなーと……でもいろいろ深掘りしたくなったのも事実。おかげでずーっと本棚の肥やしになっていた『ジキル博士とハイド氏』原作小説をきちんと読むことに。これは良い機会になりました。
裏事情——3Dアイデアがアダに?
…で、鑑賞後に映画の詳細情報を知るべく、いつもお世話になっているMark A. Miller著 "Christopher Lee and Peter Cushing and Horror Cinema"を引っ張り出して(おや、いつのまにかセカンドエディションが出ていますね!)、この映画の章を読んでいるところです。章タイトルは"The Good, The Bad, and The Ugly : I, Monster (1970)"――クリント・イーストウッド主演のマカロニ・ウエスタン『続・荒野の用心棒』の原題をそのまま「いただいて」います。(「直訳すると「良い奴、悪い奴、醜い奴」)。なるほど合ってる!(笑))この章を読み終えてから記事を書こうと思っていたのですが、予想外に長くて読了に時間がかかりそう(その間に鑑賞後の熱が冷めてしまいそう)なので書いてしまいますね。
さて、読んだ範囲では、脚本・制作のミルトン・サヴォーツキーがケチョンケチョンに言われているのが印象的です。曰く、「彼の退屈な脚本と3D映画への執着が映画を台無しにした」。話によると、映像が3Dに見えるトリック——片方のレンズを抜いたサングラスをかけて見ると立体的に見える、とかいうものらしいんですが——を、サヴォーツキー自身が発見したそうなんです。でもラッシュで試したところ、出演者を含めてほとんどの人には不評で、結局「3D」と銘打った宣伝はしなかったとのこと。でも撮影時はそれを想定して撮ったらしいんですね。
作品中に、カメラが左右に動いて人物が柱等で隠れるところが数回あります。別に「のぞき見」をほのめかすシーンでもないのに変だなー……と思っていたのですが、この「常に画面が動いている」ことが「3D」に見せるために必要だったそうで。アップを撮る時も微妙に動かなくてはならなかったとか。それは大変ですね。(^^;)
でも脚色の工夫は買う☆
映画として面白いかと言われると、確かに大成功とは言えません。でも――脚色のアイデア自体は悪くないと思うんです。公開時の宣伝でどの程度「ジキルとハイド」を匂わせていたかはわかりませんが、観客はすでに「ジキルとハイド」は同一人物だとほぼ全員が知っていたでしょう。だから変身を先に見せてしまうのも問題ありません。むしろこれをオチに持っていくのは難しい。下手をすると滑稽になってしまいそうです。
原作の刊行は1886年で、フロイトの学説が世間に流布する前のもの。当然その方面への言及はありませんし、ジキルは精神科医ではなく、最初から関心の中心は「自分の中の善と悪」です。いっぽう映画のマーロウは精神科医で、職業的な観点から「人間の内面の善と悪を分ける」研究にのめり込む、という流れです。フロイトを絡ませたために時代設定を微妙にずらしたことになりますが、フロイトの仮説がマーロウの精神科医としての言い分を下支えしていて、キャラクターに複雑さも加わり、(フィクションとしての)説得力が出たと思います。
カッシング丈の萌えどころ
ですが、この「先に正体を見せる」脚色のせいで、必然的にカッシング演じるアターソンの役割が小さくなりました。これはファンとしては残念! 原作はアターソンが狂言回しで、彼の語りで謎解きが進むのです。だけど、それでは最初に「ジキル=ハイド」の底を割る訳にはいかない。これは脚色の段階で悩んだだろうと思います。というか、自分ならたぶん悩みます。
とにかく、その分アターソンは影の薄いキャラクターになってしまいました。でも友人を救おうとする「濃い」心理がなかなか萌えもので――この時代の紳士たちのホモソーシャルな世界って、腐女子には深読みし放題でなかなかおいしいのであります(笑)。アターソンがマーロウの遺言について悪夢を見るシーンがあるのですが(これは原作を読んでやっと「そういうシーンだったのか」とわかりました。弁護士であることさえ映画ではピンとこなかった!(^^;))、あの年齢のおっさんがうなされてる寝顔を、わざわざ「レースのカーテン越しに」撮るってどういうサービス? いや、うなされるカッシング丈はたしかに美しいのですが。いいんですかそんな(腐)女子向けのサービスして!(笑)
ネコ名演
そしてタイトルにした「ネコ」! いやこれはもう、見ていただくしか。カッシング丈がクライマックス直前にネコを抱いているのですが、このネコがめっちゃかわいいだけでなく、見事に演技をしているのです! アターソンの警戒する様子に合わせて、ハッとした様子で周りを見たり。いやー、きっとうまいトレーナーさんが操っているんだろうなー。お見事でした。そしてカッシング丈の節ばった美しい指でネコを撫でる様子や、一瞬キスするところもあって……もはや官能的と言いたい。全体的にわりと退屈な(ごめんなさい)流れの中で、オアシスのようなシーンでメロメロでした。初見から数回巻き戻しましたもん(笑)。
でもアターソンのシーンは少ないし、心理もいきなり濃いところが出てきたりしてバランスが変。「3-D」を想定した撮り方をしたために使えなくなったフィルムが大量に出たということなので、その影響もあるのかもしれません。全体でもわずか1時間20分ですもん。劇場映画としては短いですよね。本来はもっとアターソンの登場シーンがあったのかも……と思うと惜しいです。ネコの登場シーンももっとあったのかなー……(笑)
個人的な偶然
…個人的な面白いシンクロは、偶然このDVDを知って注文した日の晩に、テレビの『100分de名著』でフロイトの『夢判断』シリーズが始まったこと。その前に別の偶然からユングの『元型論』を図書館で借りていたので、その流れでも面白い偶然でした。ユングもフロイトも、自分が若い頃に接した界隈の一部では、なぜか「否定することで自分の知性を主張する」対象の一つにされてた感があって(まあその心理は理解できるんですけど、自分は部分的に興味をもってたほうなので、「うーんそこまで言わんでも」と内心思ってました(笑))、そのせいもあってかこれまでずっと斜め読みで、きちんと「原著」にあたる機会が少なかったのです。今回は『元型論』に加えて『夢判断』にも触れることになって、なんだか変な感じがします。カッシング丈のお導きでしょうか。
とにかく『100分de名著』で偶然にも予習していたおかげで、フロイトのカウンセリングは「患者自身に語らせ、解釈させるもの」だと知ったあとに見ることになり、マーロウの診療のシーンも「なるほどー」でした。映画では、フロイト説が当時から賛否両論だった様子も描かれています。(これは映画制作時の見方で誇張しているのかもしれませんが)
リー名演
主役のことが置き去りになってました(笑)。紳士然としたマーロウと野卑な変身後をリーは演じ分けます。映画の最初のほうでは見た目にあまり差がなくて、「これ見てなんで周りは同じ人だと気づかないんだろう???」と思ったのですが、だんだん外見の「野卑」の度合いがひどくなり——内面の変化の大きさが見た目に反映する、というのも「深いなぁ」と思うのですが——「まるで別人」になります。お見事な変身ぶり。特殊メイクの力ではなく、姿勢や表情でやってる部分が大きいんです。変身過程を壁に映った影で表現するシーンがあるのですが、これは芸術的なレベルで素晴らしい。身体表現が古典芸能のようです。
原作古書と難波淳郎さん
改めて、原作をきちんと読めたのは本当に自分には収穫でした。持っていたのは古~い旺文社文庫。挿絵入りで時代感がグーなんです♥ もともと古書で買ったものですが、いつ買ったか覚えていません。
![]() |
| 本棚から発掘した原作小説。 付箋だらけになりました。 |
カバーイラストは難波淳郎さんという方で、今回その時代感にやられて深掘りしたら、なんと水墨画が本職の方でした。すでに故人なのですが、他にもいろいろイラスト——というか「カット」を描かれていて、調べるうちにファンになってしまいました。60-70年代のゴマブックスなんかでよく見かける、レトロ感あふれる素敵な画風です。…ついにはカット集や水墨画教本まで買い込むことになりました。(教本はDVD付きで、ご本人のお姿も拝見できます♡)こちらの話はまた長くなるので、機会があればべつのところで書きたいと思います。
(※上記文庫の本文の挿絵は司修さんという別の方です。こちらは密度のあるペン画で、やはり時代感が素敵♥)
原作、とても深読みのしがいがあるんです。一カ所文庫から引用します。ちょっと当時の訳文の読点が少なくて読みにくいですけど……
(ジキルの述懐より)
「わたしはわれわれが着て歩くこの一見しっかりした肉体というものが実は絶えず霧のようにうつろいやすい、非物質であることを、これまでのだれよりも深く見抜いたのである」
これって心霊的な意味ではなくて、現在の量子論とかに近いイメージじゃありません? 当時なりにそれを表現しているような、なにかリアルな感触があります。「幻想味」とは違う魅力なのです。
その他もいろいろ深くて、こんな設定なのに(?)説得力があり、予想以上に楽しめました♪
リリースラッシュで嬉しいやら悩ましいやら
さてさて、カッシング丈の話題に戻りますが、4/27には『ザ・スカル』もリリースとのこと。こちらはだいぶ前に輸入盤で見てしまったのですが、がっつり主役でリーとの共演ですし、やはり字幕つきで見たいかなあ……万年金欠病なのでちと悩むところです。7月には『テラー博士の恐怖』もリリースされるというし……予算を撮っておきたいところ。うーん、でも字幕ほしいなぁ……!
『ザ・スカル』もチープな感じのするジャケットだなあ……と思ったけれど、輸入盤のジャケットも基本こんな感じでした……(なぜカッシング丈の美貌を活かさない!?(^^;))
* * *
以上、約2年前のテキストでした。最後に言及した『ザ・スカル』、『テラー博士の恐怖』に関しては下記に書いておりますので、よろしければご覧ください。

