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2010年9月25日土曜日

『フランケンシュタイン・恐怖の生体実験』(1969)を再見

 

フランケンシュタイン 恐怖の生体実験 [DVD](8/11(ピーター・カッシング丈のご命日)に再見したときの感想です)

 …ご命日というわけで、家庭内カッシング祭を開催(?)、出演作品を鑑賞することに。複数見たかったんですが、時間がないので一本だけ。(どこが「祭」だ(^ ^;))気に入ってるものはわりとマメに見直していたので、あまりご無沙汰なものもないんですが・・・。一本だけ見るならやはりこれ、ということで、フランケンシュタインシリーズ五作目にして最高傑作(と、自分は思っている)、『 フランケンシュタイン 恐怖の生体実験』を選びました。男爵の水もしたたる鬼畜っぷりと、燃える屋敷でのクライマックスはシリーズでも最高の出来だと思います♪

この作品については何度も書いているのでアレですが・・・命日なので改めて書いちゃいます。いやもう、やっぱイイです!この話は人体の寄せ集めじゃなくて脳移植がテーマ。故国を追われた男爵は密かに実験を続け、優れた脳を手に入れるために殺人もします。逃亡を続ける男爵は、昔の共同研究者で今は発狂している博士を誘拐するため、弱みを握った青年医師と、その婚約者(下宿屋の女主人)を脅して協力させます。そして博士の脳を治療したうえで、昔聞き損ねた公式を手に入れようとします・・・。

というわけで、もう原作の陰は微塵もない(笑)ハマープロオリジナル路線なんですが、わりと映画としてちゃんと見られるというか、脇役に至るまでドラマがきっちりついてるんですね。どう見てもとってつけたようにしか見えないサービスシーン(男爵が女主人アナ・スペングラーを手込めにする)も、裏話を知ったあとはなんか泣けるシーンになりました。

これについては、アナ・スペングラー役のベロニカ・カールソンが、あちこちで書いたり話したりしてくれてます。(彼女はカッシングのことを「優しくて紳士的で最高の男性。みんな彼が大好きだった」と語っています。だいたいそういう誉められ方をされてるカッシング丈。男女を問わず仕事仲間に好かれていたらしいです。もちろん信頼の基盤はいい仕事をする、というところにありますが)以下はフランケンシュタインのサントラ集『THE FRANKENSTEIN FILM MUSIC COLLECTION』封入リーフレットの、カールソンの寄稿から。

 『生体実験』の撮影がもうすぐ終了、という時期になって、ハマープロの経営者ジミー・カレラスが現場に駆け込み、「スポンサーが色気不足だと文句を言ってる」といって、急遽レイプシーンを加えることにしてしまったんだそうです。監督、カッシング、カールソンは「男爵のキャラとぜんぜん合ってない」と反対したにもかかわらず。

さらに「ひどい」のは、「ほとんど撮影が終わってる」こと。当然そのシーンのあとに入るシーンもすでに撮っちゃってるわけで、そこにいきなりそんなシーンをはめ込んだら、演技の整合性が破綻してしまう。実際映画を見ていると、アナがその後男爵個人に対して感情的な反応を見せないので、違和感があります。(あくまで「自分の家に死体が運び込まれたり、自分の婚約者がゆすられて協力されられたりしている」という「状況」に対して反応している)カールソンはかなり悩んだそうです。

キャラがぶれてしまうのは男爵も同じですが、人の悪口は書かない苦労人(?)のカッシング丈は、このあたりについては自伝などでも触れていなかったと思います。カールソンによると、そのシーンの撮影の前にカッシングとディナーをしたんだそうです。これはそういう事情が入る前から約束していたことのようです。カッシングの「original dream」衣装のまま食事に行くことで、カールソンの衣装のうち、紫色のベルベットのドレスがお気に入りだったとか。(親子くらい年齢差があるんですが。カッシングでなかったらちょっと引くかもしれないこのエピソード。なぜかかわいいと思えてしまうのは惚れた弱み?(笑))

 それがそんなことになり、コスプレ(?)でろまんちっくに食事を楽しむどころじゃなくなり、ぞっとするような行為をどうやって上品な範囲でやり遂げるか」をえんえん話し合うはめに。でもどう考えてもそんなことは不可能。最後にカッシングが言ったという言葉を、カールソンは「今でも彼の声が聞こえるよう」と書いています。

 "Please remember, please remember it isn't me Veronica, it isn't me."
(「忘れないで。それは私でないことを思い出してくれ、ベロニカ。それは私じゃないんだ」)

そしてぎゅっとハグしたんだそうです。・・・こっちのほうが映画みたいなエピソードですね。かたや中年過ぎてブレイクした苦労人、かたやまだ新人女優ですから、カッシングは俳優にはどうにもならない問題なのを最初からわかったうえで、若い女優さんが撮影を通じて傷つかないように気を遣ったんでしょうね。いい話であるとともに、ギョーカイのどうしようもなさもよくわかるエピソードですね。監督の力なんか及ばないんだ…。作品のアラを監督に帰するには、慎重にならなくちゃいけませんね。(どーも映画ファンとしてスレてくると、そーいうことをポロッと書いてしまったりします…(^ ^;))

 ・・・さて、この映画を最初に見たときは、じつはアナの婚約者で男爵に協力させられる医師役の、サイモン・ウォードが目当てでした。今見ると、カールソンよりよっぽど大根な演技をしてますね。まあかわいいからいいけど。(笑)この方は『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』に出ていた美人女優ソフィー・ウォードのお父さんで、顔が娘とソックリです。若い頃は暗めの美青年であります。

 あと外せないのが、警察医役のジェフリー・ベイルドン。男爵が起こした殺人事件の捜査にあたる警部のかたわらにいつもいる、ブロンドの美中年です。台詞は少ないですが、皮肉な表情がすごく印象的。ピーター・セラーズの『カジノ・ロワイヤル』でのQなどをやってます。グラナダ版ホームズの『ブルース・パティントン設計書』では、お年を召した姿を見ることができます。設計書を管理しているところの責任者の役で、捜査に来たホームズの相手をします。(腐女子情報…実生活ではゲイの方です)確認したらいまだ現役!86歳になりますが、2010年の出演作品があります。あっぱれ!今どんな姿になってるのかな。

クライマックスを盛り上げるのが、脳移植をされるブラント博士・・・というか、脳の入れ物に体を使われてしまうリクター教授役の、フレディー・ジョーンズ。脳が入れ替わるので二役やってることになりますね。リクターでいるシーンはほんの少しだけですが。ブラントになったあとは、感情の起伏が大きいシーンばかりなのですが、抑えた演技なのがすごくいい。「さしずめ私がクモで、おまえはハエだ」と男爵に復讐する、ラストのシークエンスは圧巻です。この方は他でもカッシングと共演していますが、やっぱりグラナダ版ホームズにも出ています。『ウィステリア荘』でホームズと張り合うベインズ警部役で、こちらも内に秘めた対抗意識を抑えた演技で表現していて、すごく印象的です。名優ですね。そしてこの方も、83歳にして現役!来年公開の作品が制作中となってます。あっぱれ!

 『…恐怖の生体実験』は音楽もすばらしくて、怪奇映画というより一種の古典悲劇みたいな風格さえ感じます。(悲劇といってもロミオとジュリエットみたいなのじゃなくて、リチャード三世とか…みたいな?悪漢破滅劇とでもいいますか)オリジナルの話なので「脚本書いたのは誰なんだ!」と気になって調べたんですが、バート・バットという人で、脚本でクレジットされてるのはこれ1本。あとは助監督ばかりやっている方でした。当時の映画の作り方では「脚本家」というのは専門教育を受けてやるものではなくて、成り行きでたたき台を作る、程度のことみたいですね。プロデューサーが共同執筆みたいな表記になってます。実際プロデューサーが「誰もいないからお前書け」と言われて書いた、みたいなのもありますし。今イメージする「脚本家」とは別物ですね。(たしかビリー・ワイルダーが監督を始めたきっかけを、「誰も私の脚本なんか読まないからだ」と皮肉に書いてた記憶があります)

邦題がアレですが、原題は『Frankenstein must be destroyed』。こっちのほうがイメージぴったしです。見せ場の作り方とか、幕切れとか、まるで歌舞伎のようです。いよっ、千両役者っ!(落ち着け(^ ^;))無人島にハマー映画を一本だけ持っていくとしたらこれにします。これがシリーズ最後ならよかったのに・・・なあ・・・。(笑)