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2010年10月5日火曜日

『ブラッディ ドクター・ローレンスの悲劇』(1974)

 

ブラッディ ドクター・ローレンスの悲劇 [DVD] (2010/3/28に、DVDが国内初リリースになったときの感想です。レビューなんかではわりと叩かれることもある作品ですが(笑)、個人的には、カッシングがナイーブな面を強調して演じるのを堪能できて、大変気に入っています。初見ではちょっとショックだったのもたしかですが・・・詳しくは本文をご覧ください。ホラーファンというよりカッシングファンの未見の方には、「だまされたと思って見てみて!」とおすすめしたい一本です♪)


ピーター・カッシング「ニューリリース」(ここがうれしい(笑))DVD、『ブラッディ ドクター・ローレンスの悲劇 』、さっそく鑑賞いたしました♪(原題は『Night of the Ghoul』。邦題タイトルには枕詞的に『ピーター・カッシングのグール』とついています。グールは人食い鬼的な怪物のことらしいです)

まずジャケット写真があきらかにキャプチャー画像なのを見て「・・・ワンコイン並のクオリティ?」と覚悟。・・・中身の映像もまさにそうでした(笑)。
まあそれはともかく、作品としては…かなり覚悟をして見たせいか、意外にも退屈する箇所なしで大いに満足。買ってよかったです!なんせカッシング作品では『デビルズ・ビレッジ/魔神のいけにえ』みたいな極北トホホ作品を見てますから、「アレに比べたらぜんぜんまとも!」というへんな基準が…(悪食になじみすぎました…そろそろまともなエンターテインメント見ないと!(^ ^;))

まあそれはともかく、 デビルズ・ビレッジを引き合いに出す必要はない作品でした。ほんとに。74年作品でカッシングの演技も美貌もすばらしく、設定もおいしいし、あと美術がけっこういいです!

・・・ストーリーのほうから行きますと、時代設定はたぶん第一次大戦後くらい?金持ち坊ちゃんや嬢ちゃんたちがパーティーをしていて、余興で肝試しをしたりしています。で、車(ハンドルを回してエンジンをかけるクラシックカー)で競争することになり、おきゃんなヒロインがガス欠と霧のため立ち往生。謎めいたドクター・ローレンスの屋敷に迷い込み、恐ろしい目に遭うことに・・・。

ドクター・ローレンスがもちろんカッシング丈。ヒロインがベロニカ・カールソン。(『フランケンシュタイン・恐怖の生体実験』でもカッシング演じるフランケンと共演してました)ローレンスの庭番で毛皮フェチの変質者っぽい若者に、若かりしジョン・ハート!(大好きなんです!なんて贅沢なキャスト!(笑))

あと、もう一人引き立て役っぽく出てくる女の子をやってた人は、なんとなく『ツインピークス』でローラ・パーマーのお母さんをやってた人に似てました。(74年にこの程度の若さ・・・なのでご本人かと思ったんですが、確認したら別の人でした)ヒーローっぽい元将校の男の人は、しゃべり方含めてなんとなく「さえないコリン・ファース」という感じ。(笑)

まずカッシング鑑賞目線ですごくショッキングだったことが・・・。主人公は妻を亡くしているのですが、その「死んだ妻の写真」が、カッシング丈の実際の奥様、ヘレンさんの写真なんです。自伝にもドーンと載っている、若い頃のすごく美しい横顔のものなんですが・・・この写真が、けっこう重要な小道具として何度も映されるんです。う、うわー・・・。(^ ^;)

・・・映画が作られたのは、実際の奥様が亡くなってから三年くらい後です。この写真が出てきたらもう、なんだか主人公とカッシング自身があまりにオーバーラップしてしまって、痛ましいを通り越してゾッとしてしまいました・・・。

小道具を自分で工夫して用意する、という話はあちこちで聞いてましたが…こういうことするか普通?私だったら、「連れ合いが死んだ役を、実際の死んだ連れ合いの写真を見ながら演じる」なんて、逆に辛くて絶対できない!と思うのですが・・・。愛妻家というよりオブセッションの域に見えて、映画と同時進行で「死んだ妻の面影にとりつかれた老俳優」のホラー映画が脳内で完成してしまいました・・・。(私生活にまでホラー味の色眼鏡が・・・(^ ^;))

邦題通り、ローレンスは悲劇的な末路を迎えます。そのラストシーンにも、この写真が重要な小道具として一緒に映っているのです・・・。なんか・・・なんか映画そのものに対してより、そのオーバーラップに対してたまらなくなってしまいました。すごく怖くて悲しい。いけないものを見てしまったような感覚に陥りました。しかも絵面として、ある意味すごく美しいシーンだけに・・・。

自伝を読みだした直後ということもあり、過剰反応だとは思いますが、そのへんを抜かしての感想・・・というのは、今はショックが残っててちょっと難しいです。でもカッシングの演技はたしかに「いつも通り」すばらしかったです。

ネタバレを避けると書けませんが、すごく重い葛藤を抱えているキャラクターで(まあ、ローレンスが家族に起こった過去の事件をほのめかすあたりで察しがついてしまいますが・・・)、カッシング鑑賞ビデオとしては見所いっぱいです。

舞台が『バスカヴィル家の犬』のダートムアみたいな沼地で、カッシングがあの素敵に節ばった長い指でバイオリンを弾く姿まで拝めて(あきらかに弾いてないですが(笑))…イギリスではホームズ役で人気だったことを考えると、ちょっとしたサービスかも。ホームズファンとしても嬉しいオマケでした。

ジャケットに「ゴシック・ホラー」と書いてありますが、まさにゴシック・ホラー・・・ゴシック風の館で美女が恐ろしい目に遭うという定石を守った作品で、重要な要素である「ゴシック」の雰囲気・・・これがきっちり出ていました。さきほども書きましたが、ほんとに美術がすばらしいです。お金がかかっているようには見えませんが、ムードを描くうえで充分すぎるほど。

出てくるゴシック屋敷はすごく古そうな、雰囲気のあるセットだし、要所要所においてある装飾品は、設定(ローレンスは昔牧師としてインドで活動していた)に関連してインドものが置かれ、エキゾチックにひとひねり。悲劇的なラストシーンにも、エドマンド・バークが言う「崇高な」美しさと、ある意味キッチュな異国趣味とが絡み合っていて、なかなか正統なゴシック・ホラー作品、といえるかもしれません。

(ただし、ローレンスの「秘密」にまつわるインドの扱いはアレですが・・・やっぱ「東洋の奇怪な風習」でなんでも片づけられるものなのか!?(笑))

・・・美術があまりによかったので、さっきスタッフロールを確認しようと拾い見して気づいたのですが・・・なんと最初のタイトル部分がない!?本編の前に、「制作国米国に現存するマスターを使用しているため、ノイズ等があるけど商品の不良じゃないので許してね」みたいな注意書きが出るのですが・・・この程度のフィルムしか残ってないということなのかしら。これはハマーやアミカスじゃなくて、タイバーンフィルムという、やはりホラーで名前を聞いた会社の作品なのですが・・・イギリスじゃなくてアメリカなのかな・・・?でも「タイバーン」て、たしか昔ロンドンの処刑場があった場所の名前ですよね。うーん・・・?

まあとにかく拾いものでした。
監督はハマープロでも活躍したフレディ・フランシス。(ちなみに制作は彼の息子のケヴィン・フランシス。家族制作だったのか…)フレディ・フランシスはハマー映画などで監督をしたあと、後年は撮影技術のほうの専門家になったそうで、『グローリー』などでアカデミー撮影賞を受賞しています。たしかハマーのドキュメンタリーでも、監督としてビジュアルへのこだわりを語っていた方でした。

ストーリーの根本的なところでアレな部分があるのに、パーツごとに見ていくとちゃんとしてる・・・というか、ある意味アンバランスに「濃い」。これはハマーの怪奇映画からの伝統なのかな?なんて思いました。(笑)