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最新記事とは別に、SSブログより古い記事からひとつずつ引っ越し中です。(日付は元記事のものです)

2010年11月7日日曜日

カッシング自伝

 

Peter Cushing: an Autobiography (自伝にはすでにちらほら触れておりますが、最初に読んだときの感想です)

カッシングの自伝、Peter Cushing: an Autobiography 、ちまちまと拾い読みしております。
じつはこれ、An AutographyとPast Forgettingという二冊の自伝を合本したものです。扉には「すべてを可能にしてくれた、最愛のヘレンへ」と献辞が。表紙にも奥様とのツーショット写真が使われています。・・・部分的にですが読んでみましたら、「すべてを可能にしてくれた」というのが比喩じゃありませんでした。支えるなんてもんじゃないです。もう圧倒されます。・・・そして、前に『恐怖の雪男』の音声解説で監督が言っていた「カッシングはテレビの生放送で演じるのを好んでいた」という話とは矛盾するエピソードが出てきました。

・・・1950年代のテレビはドラマも生放送だったそうで、おまけに数日後に「再放送」まであったんだそうです。つまりすっかり同じドラマをナマでもう一度演じるわけなんですね。
で、俳優さんの立場からすると、最初の放映が好評だと「再放送」のときに同じようにできるだろうかとプレッシャーがかかり、逆に最初の放映で不評を得た場合は、それをもう一度演じるのはこれまた精神的苦痛…というわけで、一回目と再放送の間の数日は「洗練された拷問みたいなもの」だったそうです。ちなみにこのチャプターの冒頭には
「テレビジョンてなんだか知ってる?」
「知らない。テレビジョンてなに?」
ツマミがついたピーター・カッシングさ!」
というジョークが載ってまして、まあそういう冗談が出るくらい出まくっていた、ということらしいです。

で、そのノイローゼ対策のために、奥様が主治医に頼んで、市場に出たばかりの薬を処方してもらったりしたそうなんですが効き目がなく、最終的に見つけた解決策というのが…なんと奥様にスタジオまで来てもらって、放映中コントロールルームにいてもらうこと。それで勇気が出たそうです。はあ…なんというか…か、かわいい…。(…もう三十代後半の話ですよ。「いい大人がナサケナイ!小学生かっ!?」…とは感じないのが、惚れた弱みです…(笑))

ちなみに医者に出してもらった薬はアンフェタミンだったそうで、「5錠飲んでも大して効かなかった」と奥様から電話で聞いた医者は「1錠で象が24時間失神してしまう薬」だと信じていたため、「それでまだ生きてるの!?」と聞き返したという愉快な(?)エピソードが書いてありました。お医者さんもよくわかってなかったんですね。ていうか、アンフェタミンてむしろ興奮系の覚醒剤では…???…とにかく効き目がなかったので薬に頼るのはやめたそうです。…効かなくてよかった!そのまま続けて薬物中毒になってたら、後年の美しい老け顔は拝めなかったかも…ていうか、ハマー映画にも出ることなく早死にして、五十年後に極東の腐女子が萌える機会なんて永遠になかったかも!(^ ^;)

とにかくヘレンさん、マネージャーの側面も良き母親の側面も…という感じのする、ほんとにありがたい奥様だったようです。今風の言い方で言うと「心が折れた」ときに勇気付けてくれた言葉(そういう手紙をたくさん書いてくれたそうです)を引用して紹介されています。…ああ、こんなことを言ってくれる人がそばにいたら、そりゃあがんばれるな、と心底思う言葉です。なんというか、浪速恋しぐれ的な湿った内助の功じゃなくて、すごく、すごく知的で力強いんです。甘やかすわけじゃなくて、言葉に凛とした説得力がある。この方がいなかったら、ほんとにのちのカッシングはなかったかもしれないな…と思いました。そして奥様は…素晴らしいけれど、ずいぶんムリもしたんだろうなあと、と思います。40代の写真が、もうおばあちゃんみたいな顔に見えます。「ムリをした人はエライ」という文脈は嫌いなので、いろいろ思うところがあります…。

…それはともかく、奥様が亡くなったときのことも具体的に、でも淡々と書かれています。こういう人を亡くしたのなら、その後カッシングが「いっきに老け込んだ」のもわかる気がします。「彼女が他界したときに自分の愛した人生も終わったので、この物語ではそれより後のことは書かないつもりだ」とAn Autographyのほうの冒頭にあります。当初は出版するつもりは無く、セラピーの一環として書いたものだそうです。

身近な理解者を得るのはすごく幸運なことですよね。うらやましい。でもうらやんでばかりもいられません。カッシングにしても、一番最初の始まりは、やはり逆境のなかで思い切って一人で動くこと、でした。俳優になってからも、いろんな事情でやむなく父親に金銭的援助を頼みに行き、「なぜまともな仕事を選ばなかった。お前はもうすぐ四十歳になるというのに敗残者だ」とか言われたり。(フランケンシュタインで初めて映画の主演をしたときって、もう44歳だったんですよね…)でもそういう経験や、けっこう精神的に脆い面を抱えて苦労した人だったのがわかって、人物としてリアリティーを感じましたし、親近感もわきました。ほんとに、「さも簡単にやってるように見える」ようになるまでに、どれだけの努力と時間が注がれていることか!

…読んだのはほんの一部なので、これからもちまちま読んでいきます。(インデックスがついてるので便利。とりあえずクリストファー・リーの出てくるところはすべてチェックしました。わりとあっさりと触れられていてちょっと残念?(笑))